響くギターの音と、彼の声が心地いい。

「歌上手いんですね」
「ん?そうか?」
「はい」

風に歌が流れる。同時に、靡く金髪が綺麗だと思った。










黒髪と道化










「あ、リオーン」
「ロードか…」
ドープルーンの町の中心部。活気のある広場。
そこにいることが多い、黒髪の小柄な美少年。
人を近づけさせない雰囲気が漂う彼に、物怖じすることなく駆け寄るこちらもまた小柄な銀髪の少年。
四六時中一緒にいる小動物の姿が見えないが、別にいないならいないで邪魔をされなくていい。
目の前の彼が溺愛しているそいつに対してそんな気持ちだと知ったら、きっと嫌われるから決して表には出さないが。

「今日はねー、密林に木の実を取りに行ったんだけど、途中に綺麗な花があったからフィリアと ルーティとナナリーとカノンノに渡してきたんだ。喜んでくれたよ」
「…そうか」
嬉しそうに今さっきあったことを話すロード。
リオンはそれを大して面白くもなさそうに聞いている。
完璧なまでのポーカーフェイス。
しかし心の中では今ここで八つ当たり的にスタンを無意味に殴りたい気持ちであることは絶対に言わない。

「……ん?」
「…?どうしたの?」
「ちょっと見せろ!」
「え?」
何かに気付いたように、一瞬怪訝そうに眉根を寄せたリオンが突然ロードに掴みかかる。
襟をどけ、首筋にある痕を見つける。
そこには、小さな赤。
「…ロード。これはどうした」
「これって?」
リオンの言っている意味がわからず、聞き返す。
それに一瞬見開いたが、また眦を釣り上げ詰め寄る。
「この首の痕だ!」
「痕?痕なんてある?寝てる間に虫に刺されたのかな…?」
本当に知らない様子のロードに、明らかに虫刺されとは違う赤い痕を見つめる。
「………寝ている間?」
朝ギルドで会った時には確かこんな痕は無かった筈だ。
それなら今までの間に寝ていた時間があったのか。

「うん。仕事が終わった後にさっきまでジョニーさんと町外れの丘にいたんだけど、歌を聴いてる途中で寝ちゃって」
「なっ…!」
そういえば、と蘇る記憶。

いつも無表情に笑っている顔が、何だか本当に嬉しそうだった。
歩く度にひらひらと揺れる装飾の多い服は、この時には彼の感情をそのまま表しているように見えた。
そう、ひらひらと、楽しくて仕方がないという風に。
そしてそのままのにやけた顔で話しかけてきたものだから、苛々した風に2、3言言葉を交わしたのだ。

『何だその顔。気持ち悪い』
『会って早々ひどいこと言うなリオン。…ま、今はいいさ。機嫌がいいんだ』
『……?何かあったのか?』
『ああ。いやあったというより「起こした」の方が正しいかな』
『……………?』
『気にするなよ、こっちの話だ。お前さんには関係ないよ。…いやぁ、なかなか可愛かったな』

話す時のいつになく高まった声音。
表情は道化師のものとはとても思えないような、優しくて幸福感に満ちていて。

辿った記憶の中とロードの一言で、リオンの中で全てが繋がった。

「っ……来い!」
「え?リオン?」
訳がわからない、といった様子だが、リオンに引っ張られるままに素直について行く。



「関係ない」だと。ふざけるな。
確かにジョニーの恋愛沙汰などなら関係ない。誰とだって仲良くすればいい。
しかしその相手が、今自分が引っ張っているロードとなれば話は別だ。
一緒にいた間に彼がどうやって、いやどうしてロードの首筋に痕をつけたのか。
だがこの際実際に自分と同じ感情を持っているかなんて関係ない。
理由がどうあれ、彼はロードに手を出した。それだけが変わりようのない事実。
そう、それだけで十分だ。リオンを怒らせるのは。



「ジョニィィィィ!!!」



そして激昂したリオンがシャルティエ片手にギルドのドアを蹴破るのは、そのすぐ後のこと。




















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後書き

マイソロ小説2本目。相変わらずリオ主です。坊ちゃんがどんどんおかしくなっていってます。
そしてナチュラルにジョニーさんがいますごめんなさい。

元々携帯で打ってたのを書き直したんですが、半角10000文字全部使ったほど長かったので大分削りました。
前半にジョニーさんとの丘のシーンや、その後ジョニーさんとリオンのロード争奪戦の模様もあったのですよ。
後半の方は、今度続きとして書いてみようかと思います。

では、ここまで読んでくださってありがとうございました。

07.9.2