ぬるいですが情事描写あり注意。ていうかそれしかないです。
小さな窓から月明かりが差し込む夜。
遠くに微かな波の音を聞きながら、ぎしりと軋むスプリングの音がそれをかき消していく。
熱を含んだ湿っぽい呼吸の音。布の擦れる音。
あらゆる音が耳を掠め、次々上書きされてはまた聞こえてくる。
ちらりと視界を横に移せば、見えたのは灰色の燕尾。
無残に床に打ち捨てられた上着。あれだって安くはないのに。
「他の事考えてるだろ。失礼な奴だな」
「…申し訳ございません」
視線を前に戻せば、眉間に皺を寄せた自らの主人。
普段あまり見せない表情だけに新鮮だ。
こんなことを考えているから怒られてしまうのだろうなと、結局はまた思考が逸れる。
「下手なら下手って言ってくれていいから、上の空になるのはやめてくれよ」
人形抱いてるんじゃないんだから。そう言ってするりと大腿に手を滑らせる。
女性のようにやわらかい筈もない体に、手を唇を寄せてくる。
下手とは思っていませんよ。と返せば、納得していない視線が向けられた。
シリルに抱かれることに嫌悪はない。
行為そのものに対する羞恥やらプライドやらその他もろもろについて問われれば、
気にしていないとはとても言えないが。
病弱で決して健康な男子と同じとはいかないが、シリルにだって三大欲求はあるのだ。
かといってそこらの女性に一夜限りと手を出す訳にもいかない。
ならば一番身近な自分に白羽の矢が立つのは当然の道理といえよう。
180cmもある、自分より体格のいい男を代わりに出来るのかどうかは別として。
「…こんな体を抱いて楽しいですか?」
「楽しいよ」
「…さようで」
間髪入れずに返ってきた言葉に口を噤む。
どうやら主人はいつの間にか変わった性癖を持ってしまったようだ。受け入れている自分も自分だが。
首筋に軽く噛みつかれ、反射的に体が強張る。
ああ、まさか痕を付けてはいないだろうか。首を隠す衣装ではないのに。
「だって俺はお前が好きだよ?抱きたいって思うじゃないか」
「光栄です」
少し体を上げて、鼻先が触れそうな程至近距離。
青白い、あまり血の気の感じられない肌が月光で更に白く見える。
するりと頬を撫でられ、額に口付けが落ちる。
「だから力抜いて?思いっきり啼いて?」
「………善処します」
場にも台詞にも不釣合いな程に楽しそうな笑顔。
こんな状況でなければ素直に笑顔を返せたのに。
意思と関係なく揺れる体。BGMはベッドのスプリング。充満する汗と男の匂いにくらりと酔う。
蝕まれていく思考の中、残る理性で何かしらを考える。
何かを思考していないと、溺れてしまいそうだ。
ちらりとシリルに目をやれば、ああ、大きくなったなと場違いに感慨深く思えた。
ずっとずっと昔。子供の頃からシリルに仕えてきた自分。
裏を返せば、それ以外の場所で生きる術を持たない。
自分はシリル以外の場所では生きられない。
シリルも自分が居なければ、一人で生きてゆくのは厳しいだろう。
自分もシリルも互いが必要で。依存にも見える関係に、だがそこに確かに愛情はある。
そうでなければ、いくらなんでもこんなこと許容出来ない。
主人に対する敬愛なのか、一人の人間としての恋愛なのかはまだはっきり判別出来ないが、
少なくとも決して普通の関係ではないと思う。
「…ん…!」
舌を絡めて、呼吸をも奪うようにキスをされる。
シリルのキスは、正直少し息苦しい。
普段穏やかなくせに、深く口付ける時は貪るように激しいのだ。
「…ごめんね、苦しい?」
「いえ…いつものこと、ですから…」
出来るだけ冷静に言ったつもりだが、思いの外声が震えた。
耐えるように寄った眉間の皺に、くすりと満足そうに微笑む主人の顔。
ぐっと押し込められる圧迫感に息を詰める。主人は楽しそうだ。
「っ…は…!」
「俺は我侭だからね。好きなものは全部欲しいんだよ」
そう言ってまた、奪うように口付けられた。
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「愛とは、何でもかんでも相手を手に入れて貪りたいという、尽きせぬ欲望である」
(ミシェル・エケム・ド・モンテーニュ)
上の言葉を見て思いついた文。
シリシュヴァでのシリルは、俺様攻に落ち着いたようです。
これはシリ→(←)シュヴァな感じがしますが。
シリルは抱けるくらいに好き。シュヴァルツも好きだけどまだ踏み込めてないぽいです。
直前とか直後の文は書いたことがあるけど、最中は初めてなのでどうしたらいいかわからんかったです。
出来るだけエ□くならないよう描写を少なくしたら殺風景な文になりました。
シュヴァルツはきっとあんまり声出さないよ。
堪えきれずに息継ぎの時に洩れるような声がいいと思いまs(ry
では、ここまで読んでくださってありがとうございます。
10.01.30
10.10.5(加筆修正)