いつもいつも寝坊して。


ああもう、だらしのない顔をしないでください。










トーストにはたっぷりジャム











朝。既に街の人達は多くが活動を開始している。
そんな中を一人歩く少年。
今や街で知らぬ者はいないであろう、遺跡船を救った英雄の一人。
本人は不本意であろうが。



一軒の家の前に立つ。
返事がないことはわかってはいるが、一応儀礼的にドアをノックする。
やはり、無音。
出来るなら出てきてくれればよかったのに。と思いながら、木造りのドアを開ける。

家の中にある他のものには目もくれず、真っ直ぐ向かうのは二階。
足をかける度小さくしなる階段を、軽く上がっていく。
辿り着き、物の少ない部屋で正面に見えるのが、目的のもの。
早朝という時間でもないのに、未だにぐっすりと眠りこけている男。
寝相が悪いせいか、毛布はベッドからずり落ちている。
しかし本人が落ちていないだけ、今日はまだマシな日らしい。

「セネルさん。起きてください」
まずは一声。しかし起きる筈もなく。
自分が二階から落ちても知らずに朝まで眠り続けた人だ。これくらいで起きたら苦労はしない。
「セネルさーん。朝ですよー」
今度は少し肩を揺すってみる。それでも、多少身動ぎはしたが起きない。
わかっていたことでも、こうまで毎回同じだと呆れてくる。
どうしてこうまで寝起きが悪いのだろう、この人は。
一度起きてしまえば覚醒するまでの間は早い人なのに、それまでの道のりが長い。

「セネルさーん。起きてくださいよー」
いっそ何か技でもかけてやろうかとも思いながら、それでも律儀に声をかけ続ける。
「ぅ……。もう少し寝かせてくれ……」
何度目かの声かけに、ようやく反応が見られた。
そういえば、他のメンバーが起こしに行った時も何かしら声に対する反応はあるようだ。
以前そのせいでクロエが激怒したこともあったらしい。
しかも、ノーマによれば眠っていても声で誰だか判別出来るようで、返ってくる台詞も違うとか。
「……………」
それなら、自分はどうなんだろう。
何故だか今まで、ジェイはセネルの寝ぼけた声を聞いたことがない。
だからどうしてか、気になった。

声に反応を返してくるということは、現在は脳が活動している証拠。
耳元に口を近付け、さっきよりも距離を詰めて起こしにかかる。
「セネルさん、朝ですよ。起きてくださーい」
「うー…頼むからもう少し、だけ………」
モーゼスの時に返ってくる台詞は大分適当なものだと聞いたので、それから比べればマシなのだろう。
考えていると、セネルの目がうっすら開く。
起きたかと思ったが、すぐにまた閉じてしまった。
「もう!寝てるのか起きてるのかはっきりしてくださいよ」
確かに、この意識の浮上と沈没の狭間の感覚は心地いい。しかしそれは主観的なものであって。
他人からしてみれば面倒くさいことこの上ない。
起きているのかと思えばそうでない。はっきりして欲しい。

「……………」
そんな様子をを見ていると、ふとあることを思い出した。
『人は寝惚けた状態では本音を喋ってしまう』
よく妻が夫の浮気を確かめる為に使う手段らしい。
うまく逃げる言い訳を考えられる程、脳が覚醒していないからなのだろう。
それを思い出した時、不可視のジェイとしての血が騒ぎ出した。
セネルが普段仲間についてどう思っているのか、知りたい。
思うが早いか、早速行動に移す。

「セネルさん、ウィルさんのことどう思ってますか?」
「…絶対ブレス系じゃない…」
確かに。
「じゃあノーマさんは?」
「…煩い…」
そう思う。
「じゃあモーゼスさんは?」
「…ウザイ…」
同感だ。
「じゃあクロエさんは?」
「…何で怒るんだ…」
何をしたんだろう。
「じゃあグリューネさんは?」
「…緊張感が…」
無いと言いたいのだろう。
「じゃあシャーリィさんは?」
「…シャーリィ…」
セネルにとってシャーリィはシャーリィ以外形容し難いらしい。

一通り聞いてみると、大して自分と変わらないことが少し残念だった。
何か面白いことでも言ってくれればよかったのに。
「……………」
一人、自分のことは聞いていない。
聞いてみたい気もするが、何となく、勇気が湧かない。
情けないとは思いつつ、喉が音を作ってくれない。
ちらりとセネルの方に目をやると、未だに寝ている。
あれだけ耳元で質問攻めにしておいて寝ていられるのもある意味凄いと思う。

ベッドの空いている場所に腰掛ける。ぎしりと小さくスプリングが鳴った。
「セネルさん…」
普段周りが見えない程に一生懸命な人。
そのせいで突っ走りすぎるけど、常に引いた所からしかものをみない自分からしてみれば、少し羨ましい。 そんなに何かに必死になれるということが。
今まで自分が必死になれる相手といったらモフモフ族に対してだけだったから。
「でも今は、それだけじゃないんですよ?」
仲間達が、変えてくれたから。

「ねえセネルさん…」
何故だろう、さっきは言えなかったのに。
言葉が自然と流れ出る。





「セネルさんは…僕のこと、好きですか?」





ほんの少しの間の、沈黙。
たった数秒だけれど、ジェイにとってはもどかしい。
しかしどこかで、聞こえていなければいいとも思う。
答えを聞くのが、戸惑われて。

「……おれ、も…すきだよ…………」
ぼんやりと呟かれた言葉。
さっきよりもずっとあやふやだけれど、それで十分。
自然とジェイの顔に笑みが零れた。
「…ふふ…」
こんな気分になったのなんていつぶりだろう。
思い出せないけれど、そんなの今はどうでもよかった。

ひとしきりいい気分を味わった後、ここに来た本来の目的を思い出した。
すう、と息を吸い込むと、普段出さないような大声で、一声。
「セネルさん!!」


























「んー……」
「どがあしたんじゃセの字?」
朝食もそこそこに出てきたので、ウィルの家でジャムトーストを食べながら、考え込むように唸る。
さっきから続いている状態に、モーゼスが声をかける。
聞いているのかいないのか生返事を返しながら、ジェイの方へ向き直る。
「なあジェイ」
「何ですか?」
呼びかけてはみたものの、言い出そうかどうか迷っているようだ。
目を空に彷徨わせ、小さく唸る。
「いや…やっぱりいい」
「何ですか?言いたいことがあるなら言ってください」
歯切れの悪いセネルの様子に、眉根を寄せて促す。
それでも少しの間悩んだのち、意を決したように口を開く。

「今日起こしに来てくれた時…俺に『好きか?』って訊いてきたように思ったんだが……言ったか?」
「っ!?」
驚いた。確かに脳は活動していたのだから覚えていても不思議ではないだろうが、寝惚けた状態での応答は大抵覚えていないものだ。
だからこそ、あんなことを言えたのに。

心のどこかで言ってしまいたい欲はあったが、それを抑え込んでいつも通りの表情を作り、答える。

「何言ってるんですか?……言ってませんよ、そんなこと」




















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後書き

TOL初小説。やっぱりセネジェイです。今回はどっちかっていうとセネ←ジェイですが。
何が書きたかったのかっていうと、ジェイとセネルに「僕のこと好きですか?」「俺も好きだよ」を言わせたかっただけなんですけど…。
なんかもう二人ともキャラが違いすぎてどうしようこれみたいな出来になりましたが…。
それとシャーリィをどう思っているかは思い浮かばなかっただけです…orz

タイトルは本文とは関係ありません。思い浮かばなかっただけです。
せめて、と思ってセネルにジャムトースト食べさせましたが。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

07.3.22