『ルーク!ルーク!ほら見て!綺麗な花が咲いてますわ』
『ああ』
『綺麗ですわね。ペールが育てたのね』
『ああ…。ナタリアは花が好きか?』
『ええ。大好き』
『そうか…』
あの時の声。笑顔。今でも鮮明に覚えている。
太陽の下で輝く金色の髪が、美しかった。
花
俺はもうすぐ死ぬ。
その前に、もう一度お前に会って、話したい。
アッシュではなく、幼馴染みの「ルーク」として。
バチカルで俺のことを「ルーク」と呼んでくれた時、そんな場合ではないのはわかっていたが、嬉しかった。
お前の中では、俺はまだ「ルーク」でいられるのだと。
今でも、まだ時々夢を見る。
幸せだった頃の、十年間。
いつも隣には、お前と、ガイがいた。
馬鹿馬鹿しいと思いながらも、この現実のなかで、安らぎになっているのも自覚していた。
ナタリア
ナタリア
ナタリア
きっと誰よりも愛しい名前。
何よりも、安心出来る音。
いつの間にかこんなにも依存していたのか。
突然に奪われた幸せ。
もう、あの頃のようにお前の傍にいることは許されない。
だからせめて、夢の中でだけは、あの頃を。
俺はもうすぐ死ぬ。
もうすぐ消える。
だからせめて…
レプリカに聞くと、今はシェリダンにいるらしい。
会いたい。
もう一度、その笑顔が見たい。
今日見た記憶の夢で言っていた。
花が好きだと。
ペールの育てた花を見て、綺麗だと微笑んでいた。
持って行ったら、喜んでくれるだろうか。
馬鹿馬鹿しい。きっと渡すことなど出来ないくせに。
それでも、シェリダンに向かう自分の足が心なしか軽いことを自覚して、ため息が出た。
仲間と楽しそうにしている姿を見て、安心した。
たとえその笑顔が俺に向けられることはなくても、笑っていてくれるなら、それでいい。
あの頃と変わらない、優しい笑顔。
純粋さも、民を想う優しさも、変わらない。
俺だけが、変わってしまった。
会いに行こうか、散々迷った。
宿屋の前で行ったり来たりしている俺は、きっと相当怪しかっただろう。
あの中に、ナタリアがいる。
会いたい。けど、きっと本当は会うことなど許されないのだろう。
もはや住む環境が変わりすぎてしまった。
ナタリア
ナタリア
ナタリア
会いたい。
会って、呼んで欲しい。
「ルーク」と。
一瞬切にそう願ってしまった自分に、自嘲的な笑顔が零れた。
「…あら?」
部屋の前に置かれた、一輪の花。
白に近い薄桃色のスプレーカーネーション。
無造作に置かれたそれに、何故だか懐かしいような、不思議な感覚を覚えた。
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後書き
アシュナタのアッシュ視点気味。誰かの視点で書くのって苦手です。
やはり一度は書いてみたいアシュナタ。この二人はどうしても切ない感じにしてしまいます。
イオアニも書きたいな…。
そしてこんなん書いてますが、今の時点でまだアッシュのそのシーンまで辿り着いてません。
いつも書くのはテンション低いのばっかりで…。小説でテンション高いのを書ける人が羨ましいです。
何だかアッシュがキャラ変わってしまってますが、まあ、ナタリアが大好きなんだってことで。
余談ですが、スプレーカーネーションの花言葉は「純粋な愛情、あらゆる試練に耐えた誠実」など。他にもさまざまありますが、この二つが特にアッシュとナタリアにいいかなと。
まあ、アッシュが花言葉なんて考えてるとは思いませんが。
では、ここまで読んでくださってありがとうございました。
06.12.9