バイトが終わり、ロゼとも別れて、今は一人の帰り道。
一度ぐっと体を伸ばすと、筋肉が心地よく伸ばされる。
肩に下げた鞄に入った教科書類の重みが、疲れた体にのしかかる。
腕時計を見ると、10時40分を少し過ぎようとしていた。
帰って風呂に入って、少し明日の予習をして。来週提出期限のレポートは、今日一日くらいは サボっても多分大丈夫だろう。
今日はいやに忙しかったな、とさっきまでの多忙を振り返りながら暗い夜道を歩く。
「……………」
十字路に差しかかったところで足を止める。
このまま真っ直ぐ進めばいつも通り自宅のアパートへの帰路だ。しかし。
数秒逡巡した後、他に誰もいないのはわかっているのに、きょろきょろと辺りを見回してから進路を 左へと変えた。

暫く歩くと見えた、小洒落たバー。
いかにも大人の店で、この間成人したとはいえ学生身分のキリクにはどう見ても敷居が高い。
だが別に入ろうと思って来た訳ではなく。
「…いる筈、だよな…」
道路を挟んだ向かい側の街路樹の陰から、店内をこっそりと覗き込む。
道に面した壁が一部ガラス張りになっている為比較的見やすい。
よくわからない沢山の酒が並んだ棚の向こう。カウンターの奥側。
正直遠くてあまりよくは見えないが、あれは確かに。
「覗きか」
「っ……、ロゼ!?」
突然に降りかかった声。口から心臓が飛び出そうになる。
咄嗟に声を噛み殺したのを自分で褒めたかった。こんな夜に叫ぶなど迷惑この上ない。

どきどきと煩い心臓に手を当て落ち着かせながら改めて見ると、そこに立っていたのは数分前に 別れた筈の後輩で同僚の男。
こっちは驚かされたというのに、相変わらず1ミリも崩れない無表情でこちらを見ている。
「な、なんでお前、こんな所にいるんだよ!?」
「こっちは帰り道だ。貴方こそ道が違うだろう」
どうやらロゼはこの道を通って帰っているらしい。彼の家がどこにあるかなど知らないから、 いつも分かれ道で別れた後の行程はわからなかった。
ロゼの手元を見ると、店名と24時間営業の文字が書かれたビニール袋。
彼が寄り道している間に、知らず先回りする形になってしまったようだ。

「こんな場所で覗きとは…。少ないとはいえ人通りがない訳ではないんだから、もう少し考えた 方がいいぞ」
「覗きじゃない!誤解を招くようなこと……、うん、覗きじゃないって」
「自信ないのか」
ロゼが考えているような犯罪臭のするものではないにしても、店内を覗き見るという行為はしていた のだから、完全には否定出来ない。思わず言葉尻が濁る。
何を見ていたのかと、ロゼがバーに視線を向けた。
「あのバーか?大人のものに憧れるのはわかるがあれはまだ貴方には早いだろう。 ファミレスあたりが妥当だと思うが」
「お前俺をどんだけ下に見てんだ。一応お前より年上なんだぞ?」
ロゼがキリクを下に見て馬鹿にしたような態度をとるのはいつものことだが、これはいくらなんでも ひどい言われようだと思う。
ファミレスどうこうではなく、まだ早いと言われたことがだ。
そんなことわかっているのだから、そんなにはっきりと指摘しないで欲しい。

「…もういい。帰る」
思わずため息をつく。ほんの少し見てすぐに帰るつもりだったのに、いらぬ疲れが追加されて しまったようだ。
今さっき歩いてきた道を引き返す直前、もう一度ちらりと店内に目をやる。
カウンター席に一人で座る女性の話し相手をしている男が見えた。
女性客は長い髪をアップに纏めていて、遠目からの横顔でもわかる大人な美人。
バイト先の客でも美人な女性は沢山来るが、やはり店の雰囲気が違うと客の雰囲気も違うというか。
普段見ない、店の制服を着た姿だとか、オレンジ色の灯りがついた店内の空気だとか。
道路の向こうはこことは別の、自分などはまだまだ行くには早い世界に見えた。

「…どうした」
「あ、いや…何でもない。じゃあ、おやすみロゼ。また明日な」
不審げな視線を送ってくるのに曖昧に返し、今度こそ道を戻ろうと歩みを進める。
時刻は11時13分。寄り道しなければもう家が見えてきた頃だろう。
あの店の営業時間は午前12時まで。まだ終わる訳もない。
「…何やってんだ俺…」
そういえば最近会ってなかったとか、少し顔を見るだけだとか考えてしまったのは、 きっと今日がいつもより忙しかったせいだ。疲れていたから思考がおかしかったのだ。
そう考えることにして、とにかくさっさと家に帰って寝てしまおうと、歩調を少し足早なものに 変えて家路についた。





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再び突発学パロ文。
何を書きたかったのか固まらないまま見切り発車して突き進んだ結果がこれだよ。
やまなしおちなしいみなしな話を書くなら得意になりそうです。
これがキリクのデレってことで(← 直接会うとツン発動するから。

名前や身体特徴を出してないので直接的ではありませんがよその子無断拝借しております。
以前学パロではバーテンやってるって設定があったのを思い出したので。

では、ここまで読んでくださってありがとうございました。

10.9.13
10.10.5(加筆修正)