気に食わない。

なあこっちを見ろよ。










優先順位










「……………」
「……………」

初夏。志村家。居間。
一燈が訪れた時、丁度タイミング悪く時生が毎週欠かさず見ているアニメの放送時間だった。
よって、折角遊びに来たというのに時生はテレビの前に行儀良く正座。客人の一燈はほったらかしで。

「……………」
「……………」
さっきから聞こえるのは、時生を占領している四角い箱から流れる台詞と効果音。
かちり、かちり。時計の秒針の音も微かに混ざる。

このアニメが始まってから何分経っただろう。
ちらりとかけてある時計を見ると、まだ15分。あと半分ある。
一燈の体内時計からしてみれば、もう30分なんてとっくに過ぎているのに。

苛々苛々。元々沸点の低い頭が沸騰し始める。
いくら旧知の仲とはいえ一応客人である自分をほったらかしてアニメ鑑賞とは何事か。
ああ、苛々する。
折角遊びに来たのに。折角、会いに来たのに。
それなのに何故今彼を独占しているのは自分でなくあんな箱なのだ。
ああ、苛々する。

時生。時生。こっちを向けよ。この際せめて一瞬でもいいから。

「時生」
アニメが始まってから一秒たりとも目を逸らさない時生に向かい、一言名を呼ぶ。
一瞬目線を、意識をこちらにやってくれるだけでいい。そうしたら、何とかあと15分我慢しようじゃないか。
しかし。
まるで聞こえなかったかのように綺麗に無視された呼びかけに、一燈の脳内で何かが切れた。

パチン。軽い音を立ててテレビが暗くなる。
「っ……!?」
突然訪れた悲劇に、どうしたのかと辺りに目線をやる時生。
後ろを振り向くと、リモコンを持った一燈。
「ちょっと、何するんですか一燈さん!」
「うるせえ」
眉間に皺を寄せ抗議する時生の言葉を、時生以上に眉間に皺を刻んでたった一言で切り捨てる。
リモコンを取り返そうと伸ばされた細い腕を、逆に掴んで思い切り引き寄せる。
「うわ」
小さく上げられた驚きの声を無視し、その体をしっかり腕に収める。
「ちょっと一燈さん!アニメ終わっちゃうじゃないですか!」
「どうせ録画してんだからいいだろうが」
ぎりぎりと、抱き締めるというより締め上げるようにきつく力を入れる。
痛がりながらも未だに暴れてリモコンを取り返そうとする姿に、苛々は止まらない。

「おい時生。お前俺とアニメとどっちが大事なんだよ!」
「今はアニメです!」
はっきりと言い切られ、数秒固まる。
少し遅れて、ぴきぴきと額に青筋が立つ。
「ほぉーう。この状況でいい度胸だな時生…」
「ぃ、いたたたたたた!!」
ぎりぎりと体が軋む程に強く締め上げる。
悲鳴を上げながら、動かせる方の腕で畳を叩き降参の意思を伝えるが一燈はやめる気配を見せない。
どこかで見たようなプロレス技を仕掛けられる。自分がかけられる日がくるなんて思ってもみなかった。
「ご、ごめんなさい一燈さん!一燈さんの方が大事ですから!」
「今更言われても嬉しくねえんだよ!」
暫くの間ぎゃーぎゃーと騒ぎ声が響く。
ようやく開放されテレビをつけ直した時には、もうエンディングが流れていた。
「ああー…」
がっくりとうなだれる。なにやらぶつぶつ呟いているのも聞こえた。
その様子に少しだけ満足感を得ながらも、まだ残っているイラつき。
「おい時生」
「…なん…」
言い終わる前に、声が途切れる。



ほら、アニメが何だ。

こんな箱が何だ。

お前に、こいつにこんな表情をさせられるか。



呆然と見上げてくる幼さの残る顔に、満足げに口元を吊り上げた。




















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後書き

初書きカトブレパス小説。
愛しすぎてとうとう書いてしまいました。

コンセプトは「アニメに嫉妬する一燈」と「時生にとっての優先順位」
ちゃんと書ききれているかは微妙なところですが…。

本当はもっとすっきりした感じに書きたかったんですが、いつの間にかギャグな雰囲気がorz
そしてTODに続いてしょっぱなからキスさせてしまいましたすいませんでした。
キスさせるの好きなんです。ぎゅーっと抱き締めるのはもっと好きです。

では、ここまで読んでくださってありがとうございました。

07.7.14