ごめんなさい。ごめんなさい。

いいこにしていますから、なぐらないで。すてないで。

「ジェイ、残念ですよ。あなたはもっといい働きをしてくれると思ったのに」

「ご、ごめんなさい…」

「もうあなたはいりません。……さようならジェイ」

「ごめんなさい。ごめんなさい…」

笑いながら目の前に翳されたのは、鈍く光るナイフ。














今宵も良い夢を













「ぅわあ!!」
「ぶっ!」
起き上がり、状況を確認する間もなく頭に衝撃。そして短い悲鳴。
見ると、額を押さえながら倒れて低く呻く、見知った人。
「…セネルさん…?」
「さ、流石上段攻撃が頭突きなだけあるな…」
「何を言ってるんですか?」
起き上がったセネルの額を見ると、僅かに赤くなっていた。自分は痛くないのに。
それよりもまず、何故セネルがここにいるのか。
記憶を辿ると、そういえばここはウィルの家だったと思い出す。
そろそろ宿代がまずいことになってきたノーマが「お泊り会」と称し皆を集め、体よく口実作りに協力させられて。
帰ろうとしたのに、変に気を使ったキュッポ達に背中を押され、流されるままに敷かれた布団に潜り込んでしまった。

そうして次々記憶を引き出していくと、ついさっきまでの夢に辿り着く。
「……………」
俯き、唇を噛み締める。血の気が引いていく錯覚。
無意識に肩が震える。

何故、こんなものを。

「…ジェイ、大丈夫か?うなされてたが…」
「大丈夫ですよ。…すみません、起こしてしまって…」
うなされてすらいたのか。隣で寝ていたセネルを起こしてしまった。
その向こうのモーゼスは、相変わらず呑気に寝ているが。

「…ソロン、か…?」
「っ……!」
問う形ではあるが、確信を込めた言葉。
答えはしなかったものの僅かに示したジェイの反応で、それが「是」だと受け取る。

時が過ぎて、ようやく傷も癒えたと思ったのに。
再びその姿を見た時の、あの恐怖。
植えつけられた記憶と恐怖心は、頭では忘れたと思っても体はそうそう忘れない。

一気にフラッシュバックする過去。
自分は道具。意思などない。ただの道具。
あの男にとって自分が生きようが死のうが関係ない。クナイと同じなのだから。

「……………」
震える肩を抱き締める。寒くないのに、歯の根が噛み合わない。


どうして。見たくなんてなかった。あいつの夢なんて。

怖い。

怖い。

こわい。こわいこわいよいやだだれかたすけて。


「ジェイ…!」
「っ…、セネルさん…!?」
突然感じる温かみ。体に回る腕の感覚。
力強く、ただ抱き締められる。
「……………」
何も言わないセネルの優しさ。
言葉で慰めることなんてしない。そもそも、他人が慰めるものではないから。

耳をつけた胸から聞こえる、心臓の拍動音。服越しに感じる血の温度。
生きている温かさに触れていることが、余計に寂しい。


「セネル、さん……」
「……………」
「僕は…道具なんかじゃ、ないですよね…?」
「…ジェイ……」
「僕は、生きているんですよね…?クナイと一緒なんかじゃ、ないですよね……?」
「…ああ…」
小さく、たった一言。
抱き締める腕の力が、一層強くなった。


「当たり前だろ。ジェイは生きてる。生きて、今ここにいる。お前の体は、こんなに温かいじゃないか…」
「………!?」

温かい。そんなの思ったこともなかった。
自分の体に体温を感じたことなんて、なかったから。
それが今のセネルの言葉で、やっと理解した。ああ、僕にも血が流れていたんだ。


「っ……セネルさん……!」
今まで聞いたことのない、泣き出しそうな声。
表情は、俯いた上解かれた闇色の髪に隠れて見えない。

胸に押し付けられた頭を、何度か撫でてやる。まるで幼い子供にするそれのように。
その手が優しくて。安心出来て。
さっきは寂しかった温かさが、今では離れがたい。
母親の羊水で泳ぎ回っていた頃の、原生の記憶に触れているのだろうかとぼんやり思う。

この記憶も温かさも自分が生きているからこそ感じているのだと気付き、今この体が脈打っている事実が、とても愛おしかった。























「……………」
抱き締めた体勢のまま、胸に頭を預ける形で眠ってしまったジェイを見る。
さっきまでのように辛そうな唸り声は聞こえない。聞こえるのは、安らかな寝息だけ。
それを聞き、ふっと安心したように表情が和らいだ。
もう一度軽く頭を撫でてやってから、そっと布団に寝かせる。
毛布を肩までかけてやり、幼い子供のような寝顔を見つめる。
「おやすみ……いい夢を見ろよ」
優しく囁いて、自分も布団に潜る。
布団からはみ出ている小さな手に自分の手を重ねて握り、ぬるま湯に浸かっているかのような心地いい体温を感じながら、ゆっくりと眠りの世界へと堕ちていった。















その夜見た夢は、とても優しく温かいものだった。




















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後書き

TOL文2作目。やっぱりセネジェイ。
私がこういう系のシリアスを書くと、大抵受け子が精神的に弱っていて攻め様が慰めてます。
好きなんだろうなこういう関係が。
しかし今回のセネセネはどちらかというとお母さん気質なんじゃないかという噂。

抱き締めたり頭を撫でたりっていうのが大好きなので両方やらせてみました。
手も繋いでますがジェイが意識ないのでノーカウント。次の作品あたりでちゃんとやります。

しかしこんな話書いておきながら、私ジェイ編全て見てませんから。(致命的)
駄目ですね。怖くてもちゃんとプレイしようと思います。作品の中身がぺらくなるので。

では、ここまで読んでくださってありがとうございました。

07.5.4